東京メディエーションセンター代表の鈴木です。これから少しずつメディエーションにまつわるコラムを書いていきたいと思います。
近隣トラブルの難しさ
メディエーションセンターに寄せられるご相談の一つに「近隣トラブル」があります。賃貸でも持ち家でも、マンションでも戸建でも、それぞれの事情によって色々なご相談があります。
近隣トラブルの難しさの理由の一つは、必ずしもどこかに明確な悪いことがあるわけではないことです。
たとえば、近隣トラブルで多いのは、音のことです。
上の階の人が歩くこと、ドアを開けること、閉めること、その音がどんな大きさで発生していても、それが深夜であれ、早朝であれ、誰かにその行為を非難され、制限されるものではありません。無音で生活することは不可能ですよね。
ただ、その影響を受けている人にとっては、そのことで例えば音で寝れなくなったり、そのことが気になってしまい何かができなくなってしまう、大きな問題だったりします。
だからといって、なんとかしたいと思っても、どうしたらいいか悩んでしまいます。相手に言っていいものなのか、相手からの反応を恐れたり、相手との関係がこじれてしまわないか。と躊躇することがほとんどでしょう。
実際に相手に伝えることができたとしても、取り合ってくれないこともありますし、「そんな些細なことでわざわざ?!」のような反応をされたりして、深刻に捉えてくれないこともあります。たまりかねて、勇気を出して言ったのに伝わらなかった、変わらなかった時には、残念さが残ります。そしてそれがまた募り、心のモヤモヤが大きくなるとともに、関係の不安定さも大きくなっていきます。
そして時に、暴力行為に至ってしまうこともあります。
一度こじれてしまうと、戻るのには難しさがあります。近隣トラブルというのはそういうものなのです。
近隣トラブルが起きてしまったら
では、近隣の方とトラブルになってしまった場合どうしたらいいでしょうか。ありそうな選択肢を考えて見たいと思います。
選択肢1:大家さん、管理会社に相談する
賃貸にお住いの場合、大家さんや管理会社など、家の環境へ責任のある方へ相談するもの良い方法だと思います。
この良い点は、自分ではない誰かが相手に伝えて解決を図ってくれることです。
ただ、良くない点は、大家さんも管理会社もトラブルを望んでおらず、取り合ってもらえなかったり、行動をしてもらえなかったり、クレームを言うあなたを煙たがる可能性があります。
またトラブルを解決するすることに慣れていないことも多く、状況が収まっても、相手に嫌な気持ちが残ったままになる可能性があります。
戸建てや持ち家の場合は、大家さんや管理会社はいないのであてはまりません。
選択肢2:警察に相談する
「生活相談係」などの係があり、相談に応じてくれます。
警察は主に刑事事件を扱い、民事事件に対しては民事不介入という方針をとっていますので、刑事事件になっているか、刑事事件に及ぶ可能性はどの程度あるかをまず確認されます。現場を確認しにきてくれたり、証拠となるものを教えて欲しいと言われたりします。
場合によっては、見回りを強化してくれたり、警察のデータベースに自分の相談を登録してくれて、電話をかければすぐに内容がわかるようにしてくれます。毎回最初から状況を説明する必要がないようにしてくれます。
ただ、トラブルの相手の心情としては「警察を呼ばれる」「警察が来て注意を受ける」というのは大きな驚きになると思います。
選択肢3:行政(市・区)に相談する
行政に相談をすると話を聞いてくれ、担当する部署につないでくれようとしてくれます。ですが、実際には適当な担当する部署は見つからないということが多くあります。「近隣トラブル」は複合的なトラブルになっていることが多いですが、行政は「騒音」「子育て支援」「住宅相談」など、個別のテーマに反っている内容を、部署毎に受けているからです。
選択肢4:自治会(マンションの自治会、町内会)に相談する
戸建住宅であれば町内会、マンションであれば管理組合など、住民の自治組織があります。
相談すると同じ思いをしている方がいたり、また、チラシを掲示するなど注意喚起をしてくれることもあります。
また、地域には民生委員という立場の人がいます。地域において、住民の立場に立って相談に応じ、必要な援助を行い、社会福祉の増進に努める役割を担っています。話を聞いてくれ、どのようにしたら良いか一緒に考えてくれます。
困っているということを知ってもらったり、相手の事情を知れることもあったり、まずは相談してみるのは良いかと思います。自分の地域の民生委員が誰かは、ご近所さんや役所に聞いてみましょう。
選択肢5:弁護士に相談する
トラブル・紛争というと、弁護士に相談したり、裁判所による解決を試みることを思いつくかもしれません。当然、法的な権利・義務(わかりやすく言えば、金銭や契約等に関すること)をめぐるトラブルであれば、弁護士や裁判所が関与して、法的ルールに基づいた解決方法によることがふさわしいといえます。
ただ、特に近隣のトラブルというのは、必ずしも法的な権利・義務に関わるものとは限りません。例えば、ゴミ出しのルール等は、法律に基づいて解決することは困難でしょう。このような問題について、例えば弁護士にした場合、それは仕事として受けられないと断られるか、むりやり法律上の問題として構成し、金銭や契約上の紛争として処理されることになりかねません。これでは、近隣の関係に余計な亀裂が生じてしまうことになってしまうでしょう。
選択肢6:探偵に調査を依頼する
トラブルといっても、まずは何が起きているかわからないこともあります。誰が何をしているのか、何が自分に起きているのか、まず知るのに証拠を集めることを引き受けてくれます。
選択肢7:写真やレコーダーに記録する
起きたことを記録に残しておくことは、相手に伝える時、誰かに伝える時に役に立ちます。カメラで映像として記録したり、音声を記録したりしておくことは役にたつと思います。ハードディスク内蔵のセンサー付き防犯カメラなど役に立つことがあります。
選択肢8:相手本人に伝える(手紙)
こちらの状況を伝えようとしても、相手がいなかったり、応答しなかったりすることもあるかと思います。また、直接言うのは怖いということもあるかと思います。その時に、手紙を書くという方法もあります。
手紙は、相手の時を選ばないのでその面では良いのですが、読んだ相手がどのような感情を持ったか、反応を確かめられない。という面があります。返事がなかったりすると心配になります。
また、一方向のコミュニケーションであるので、受け取った方は一方的に文句を言われたように感じて、感情を害する可能性もあります。
まずは、「相手に行動の変更などを依頼する表現」よりも「自分を主語にし、自分がどのように困っているかなどを伝える」方がより良いと思います。
選択肢9:相手本人に伝える(直接)
そのことが起きている時(たとえば、大きな音が出て眠れない時)に伝えることも大事ですが、何よりも大事なのは自分が平静でいる時に伝えることが大切です。
はじめにどうするかですが、一番良いのは、状況を聞くことだと思います。
音がうるさければ「とても大きな音がした(している)んですが、何かありましたか?大丈夫ですか?」と、もしかしたら相手は大変な状況にあるかもしれないので心配をしながら事実を確認するのが良いと思います。
次に、状況がわかった後で何を伝えるかですが、相手の行為を止めてほしい、と伝えることよりも、自分がそのことでどうなって、どんな気持ちでいるかを合わせて伝えることの方が相手は受け止めやすいです。
なぜかというと、人に言われてやることよりも、相手の事情を理解して、自分で考えて改善策を図る方が納得感があるからです。
相手本人に直接伝えるのは勇気がいることと思いますが、まずはこれが一番良い第一歩だともいます。
選択肢10:メディエーションを依頼する
近隣トラブルの解決において、アメリカやイギリスでは多く利用されている手法です。
メディエーターと呼ばれる第3者を介して、当事者同士が直接話し合いをして、事情を知り合い、お互いに納得できる解決策を共に探ります。
どちらを悪いとすることなく、双方の間で困っていることを共有して、一緒に考えながら、少しずつ改善を図っていきます。
近隣トラブルを解決するには、話し合いをするのが一番解決になると思います。このメディエーション という手法は、とても役に立ちます。